「エジプトのラマダンは、別物。」この言葉は、決して大げさじゃありません。エジプトのラマダンは、他のイスラム諸国とはまったく違います。ラマダン・ランタン(ファヌース)や、イフタールを告げる大砲から、スフールの時間まで、この国ならではの、特別で魔法世界みたいな雰囲気があります。
ラマダンが始まると、エジプト全体の「雰囲気」が一気に変わります。食事の時間、街の音、そして街中を彩る飾り。
ここではラマダンは、ただの宗教行事ではなく、ひとつのライフスタイルなんです。まるで別の時間、別の世界に入ったような感覚になります。
しかし、その話に入る前に、まずはいくつかの基本的な質問から始めましょう。「ラマダンってどんな月なのか?」そして「なぜイスラム国でそれほど特別な月なのか?」そんな基本的なところから、少しだけ紹介したいと思います。
ラマダンは、イスラム圏における断食の月です。断食は、夜明け(ファジュル)から日没(マグリブ)まで行われます。この時間帯は、食事や飲み物はもちろん、喫煙もしません(喫煙者の場合)。そして、断食は「イフタール(断食明けの食事)」で終えます。
ラマダンは、新月(三日月)が確認されることで始まります。イスラム暦は太陰暦のため、月の動きに基づいています。そのため、ラマダンの初日や最終日は、国によって異なることがあります。
ラマダンは29日間または30日間続き、新しい月の三日月が見えるかどうかで決まります。その結果、ある国では29日でラマダンが終わり、別の国では30日まで続くこともあります。
私たちにとって、ラマダンは単に飲食を断つ月ではありません。心を落ち着かせて、神様に近づき、自分自身や人間関係を少しでも良くしようとする月です(できる範囲でですけどね! )。

それでは、エジプトの街で感じられるラマダンの一番大きな特徴から見ていきましょう。まず、ラマダンの伝統的な日常の風景を見てみましょう。
1-ラマダンのランタン(ファヌース):
ラマダンが始まる約2週間前になると、街中がラマダンの飾りでいっぱいになります。その中でも一番の主役が「ファヌース・ラマダン(ラマダンのランタン)」です。
エジプトでは、ラマダンが近づくと必ず見かける定番アイテムで、本当にたくさんの形やデザインがあります。これがいわゆるクラシックな形ですが、時代とともにデザインも変化してきました。
最近では、子どもや若い世代に合わせて、音楽が流れるファヌースや、エジプトで有名なキャラクター(バッカールやファナニース)の形をしたものも登場しています。このファヌースの起源や、なぜエジプトでラマダンと深く結びついたのかについては、また別の記事で詳しく紹介する予定です。

ラマダンの前には、どの通りにもファヌースを売るお店が並び、形・種類・色も本当にさまざま。エジプトのあらゆる地区で、ラマダンを迎える喜びを表すように、特別なライトで街がきれいに飾られます。


2-ハヤミーヤ柄の布(キヤーミーヤ布):
下の写真のように、この布はラマダンの時期によく使われる装飾のひとつです。エジプトでは、ラマダンになると街や家の中でよく見かけます。この布は、ランタンやテーブルクロス、壁飾りなど、いろいろなアイテムに使われていて、ラマダンの雰囲気を醸し出すとても特徴的な装飾です。色鮮やかな模様が、街や家を一気にラマダンムードにしてくれる、エジプトならではのラマダンの風景のひとつです。
3-メサハラティ(Mesaharati):
メサハラティとは、夜明け(ファジュル)の祈りの約2時間前に街を歩きながら、人々を起こしてスフール(翌日の断食に備えて食べる最後の食事)を知らせる人のことです。太鼓をたたきながら、独特のリズムで「さあ起きて、永遠なる神は唯一、ラマダン・カリーム!」といったフレーズを唱えます。これは「起きてサフールを食べてね」という呼びかけと同時に、ラマダンの祝福を伝える意味もあります。メサハラティはとても古い伝統的な役割で、今でもラマダンの時期だけ見ることができます。もしラマダン中にエジプトを訪れて、夜中に太鼓の音とこの掛け声を聞いたら、その人がメサハラティです!「メサハラティ」という名前は、断食前の最後の食事である「スフール(Sohor)」という言葉から来ています。この文化については、別の記事で詳しく紹介する予定です。

4-イフタールの大砲(مدفع الإفطار):
日没(マグリブ)の時間になると、大砲の音が鳴り響きます。この音を合図に、人々は断食を終えてイフタール(食事)を始めます。この大砲には長い歴史と物語があり、それについても別の記事で詳しく書く予定です。
宗教的・社会的な習慣:
1.モスク:
ラマダンの時期になると、モスクはタラウィーフ礼拝の時間にとても混み合います。タラウィーフ礼拝は、イフタールの後からおよそ1〜2時間後に行われる、ラマダン特有の礼拝です。

2.共同イフタール(集団での断食明け):
エジプトの街中では、「モアーイド・アル・イフタール(イフタールの食卓)」と呼ばれるものをよく見かけます。
大きなテーブルが道路沿いに並べられ、断食をしている人や、生活が苦しい家庭や人、無料で食事が振る舞われます。お金を払わずに、誰でも座って食べることができるんです!
それだけではありません。多くの人がイフタールの時間に、ジュースやデーツ(ナツメヤシ)を用意して、家に帰れなかった人や通りすがりの断食者に配ります。街のあちこちで、水やデーツ、簡単な食事を無料で配っている人を見かけます。見返りを求めず、できる人が、できることをするって、こういう行為には、私はいつも心を動かされます。

3.ラマダンバッグ(食料支援):
ラマダンが始まる前になると、経済的に余裕のある人たちが「ラマダンバッグ」と呼ばれる食料袋を用意し、生活が苦しい家庭や支援が必要な人たちに配ります。袋の中には、お米、パスタ、油、レンズ豆やソラ豆などの豆類、砂糖など、生活に欠かせない食材が入っています
これは、エジプトの中でも特に美しい習慣のひとつだと感じています。ラマダンバッグを用意する人が、必ずしも裕福である必要はありません。それぞれが「できる範囲で」助け合おうとする気持ちが、この習慣を支えています。

その他のラマダンの特徴:
1-ラマダン前になると、特にスーパーではこの時期ならではの食べ物や飲み物がたくさん並び始めます。例えば、カマル・エッディーン(干しアプリコット)、ソビア、ハルーブ(いなご豆)、イロクスースなどの飲み物。食べ物は、干しイチジク、プルーン、干しアプリコット、デーツなどのドライフルーツが中心です。これらについては、また別の記事でまとめて詳しく紹介する予定です。
2-ラマダンならではの有名な音楽も、この時期はテレビやラジオ、街中で一日中流れています。
3- イフタールの後のエジプトのテレビドラマも、ラマダンの大きな特徴の一つです。実はエジプトでは、なぜかラマダンの時期に新作ドラマが一斉に放送される文化があります。「ラマダンが礼拝の月じゃなくて、ドラマを見る月になった」と批判する人も多いのですが、毎年この時期になると、俳優たちがこぞって新作ドラマで競い合います。正直に言うと、私は生まれた時からずっとこのこと(新作ドラマが一斉に放送される文化)を見て育ちました!

4-ラマダン・テント(خيم رمضانية):
イフタールの後、「まだラマダンの雰囲気を楽しみたい!」という人たちは、ラマダン・テントと呼ばれる場所に出かけます。そこでは、エジプトの民俗舞踊(タンヌーラダンス)やラマダンの音楽が楽しめて、夜のラマダンならではの雰囲気を味わうことができます。
この記事では、エジプトのラマダンの雰囲気や風景や特徴をできるだけ簡潔に紹介してみましたこの時期にエジプトを訪れると、きっと不思議な感覚になると思います。イフタールの時間になると街は一気に静かになり、落ち着いた雰囲気は日本の都市と似ています。そしてラマダンの1週間前には、街中が買い物をする人たちで一気に賑わうこと…。本当に、いろんな表情があるんです。
「じゃあ、エジプトのキリスト教徒の人たちはラマダンの時どうしているの?」と思う人もいるかもしれません。実は彼らも、私たちと一緒にラマダンの雰囲気を楽しみます! 宗教は違っても、イフタールに招いたり、一緒に食事をしたりする!これが私がエジプトで一番好きなところです。みんな、結局“ひとつになる”なんです !

ラマダンのエジプトについて話したいことは本当にたくさんあって、正直、1つの記事に全部書くのは無理だな…と感じています。だから今回は、基本的なポイントだけを紹介しました。これから、エジプトのラマダンで特に印象的なものを1つずつ、もっと詳しく別の記事で書いていこうと思います。

エジプト人は、普段は一年中ちょっと言い合ったり、からかい合ったりしていますが、ラマダンになると不思議と、みんな同じ時間にイフタールをして、同じ時間に祈り、小さな違いや衝突を横に置いて、ひとつになります。正直、ラマダンの時のこの空気が、一年中続けばいいのに…と時々思います!(もちろん、断食なしで、ですけどね)。ぜひ一度、エジプトのラマダンの雰囲気を体験してみてください!
きっと、他のどの国でも味わえない特別な時間になるはずです。







